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【書評】国境の南、太陽の西「その欠落そのものが僕自身だからだよ」

村上春樹流のダメ男

やりがいのある仕事、愛する家族がいながらも、初恋の人が忘れられない男の話。

主人公の「僕」は、運命的に出会った女性と結婚し、義父(金持ち)から借りた青山のビルで”ジャスを流す上品な”バーを経営している。そのバーに初恋の女性「島本さん」が現れ、なんやかんやあったけど最終的には一夜を共にするが、翌朝目覚めると島本さんはいなくなっていた。。という感じ。

「抗えない」とか「僕の中の何かが」とか春樹節でオブラートに包まれてるけど、要はダメ男の話です。

最後の「僕」の独白がすごい

でも私はこの小説が大好きだ。

最終的には妻とやり直すのだけど、そのとき妻に「僕」が語った言葉を引用する。(長いけど)

「僕はこれまでの人生で、いつもなんとか別な人間になろうとしていたような気がする。(中略)でもいずれにせよ、僕は違う人間になることによって、それまでの自分が抱えていた何かから解放されたいと思って居たんだ。僕は本当に、真剣に、それを求めていたし、努力さえすればそれはいつか可能になるはずだと信じていた。でも結局のところ、僕はどこにもたどり着けなかったんだと思う。僕はどこまでもいっても僕でしかなかった。僕の抱えていた欠落は、どこまでいってもあいかわらず同じ欠落でしかなかった。(中略)僕の中にはどこまでも同じ致命的な欠落があって、その欠落は僕に激しい飢えと乾きをもたらしたんだ。(中略)ある意味においては、その欠落そのものが僕自身だからだよ。」

自分に対する不安とか人生への恐怖とか自己愛とかいろいろあふれてるんだけど、ああそうかと。そういうどうしようもないものへの怯えが、「僕」をそうさせちゃったんだ。わかる。

ここにたどり着くために、ぜひともこの小説を読んでいただきたい。

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)